Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀 第一二話「切れざる刃」感想

切れざる刃で万物を切る、人呼んで……“刃無峰”!
今まで私のベストエピソードは殺無生が登場し圧倒的な力で魅せてくれた4話と、己の矜恃の為に負けると分かっていても戦った殺無生VS俺が最強なのは当たり前・蔑天骸が描かれた9話でしたが、それらを抜いて今回の12話がトップに躍り出ました。それほどまでに殤と言う人間、その格好良さがこれでもかというぐらい凝縮された一話でした。
ただ、少しばかり不満もありました。それについては後述します。

玄鬼宗をうまく撒いた殤はたまたま丹翡と捲殘雲に合流、事の成り行きを丹翡から聞き、蔑天骸が既に天刑劍にリーチをかけていると考えます。言いつけ通り檻で待っていれば、と謝る丹翡に、他人をからかって楽しむような胸糞悪い凜の計画が潰れて良かったじゃないか、天刑劍は真っ当な手段で取り返そうぜ、と殤は明るく言います。そんななんくるないさー」な殤の態度に、殘雲はブチ切れ。
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「あんたって奴はとことん何考えてんだかわかんねえ。笑うところも驚くところも全然違う。名誉も沽券も気にかけないくせに、厄介事には平気で首を突っ込む。マジでやってんのか、ふざけてやってんのか、万事が万事、からかわれてるような気分になってくる!」
「……悪気はねえんだがなあ」
自覚はあったのか。
普段はへらへらしているがやるときはやる人間が、それを知らずに誹られる。実に王道ですな。その後真の実力を知って見直されるのも含めてワンセット。もちろん我々視聴者と違ってそんな物語のセオリーなんて知るはずもない殘雲にとって、殤は変な生き物にしか見えないでしょう。そうでなくとも自分の名を上げることに価値を置く殘雲には、名利栄達に重きを置かない殤という存在は受け入れがたいものです。
剣客の格好をしているくせに二つ名も名乗らない、と殘雲。二つ名は名乗るのではなく他人がつけるものだと言う殤に、だったら俺があんたの二つ名を考えてやるよ、と殘雲は返します。
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「ろくすっぽ切れねえ剣をかっこつけて使ってるあんたなら、さしずめ“刃無峰”ってところじゃねえの?」
“刃無峰”、すなわち切れない刃。剣士にとってはこれ以上ないほどの侮蔑でしょう。これに対し殤は、
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「いいじゃないか、気に入った。それ、いただきだ」
むしろ嬉しそう偶然にしては出来過ぎているほど殤にピッタリの二つ名であるということは、このあとすぐに分かります。

殤を追って現れた玄鬼宗。満身創痍に加え、槍を失った殘雲は苦戦します。ピンチに陥った殘雲を助けるため、自らの剣を投擲する殤。
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「ハハハ!どこまで愚かな。剣を自ら捨てるとは」
「ああ?何を捨てたって……?」
そう言って殤が拾ったのは、なんとその辺に落ちてた木の棒。殘雲が殤の剣を拾い届けようとしますが……
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「この剣、刃がない。いや、鉄ですらねえ。ただの木の棒を銀色に塗っただけじゃんか!」
ただの木の棒を銀色に塗っただけ!殤の剣が恐らく刃引きされたものであることは感想スレでも予想されていましたが、まさか鉄ですら無く正真正銘ただの木の棒とは。わざわざ銀色に塗ってあるのも個人的に笑えてポイントが高い。納刀の時にカポン、と小気味いい音が出てたのは鞘や柄だけでなく刀身も全て木で出来ていたからか。まさに切れざる刃、“刃無峰”
じゃあ今まで殤はどうやって戦ってきたのか、と訝しむ丹翡。そしてここからは殤のターン!
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「貴様、剣も使わずどうやって!?」
「そりゃ勘違いにも程があらあな。そもそも俺は最初から剣なんて、使ってねえよ」

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木の棒で鉄の刃に穴を開け、砕き、玄鬼宗の雑魚を切ったついでに巨木も真っ二つ!なぜそんなことが出来るのか、理解できない凋命に殤は言います。
「刃たりえるのは鋼だけだとでも思っていたか?甘いぜ坊主。十分に練った氣を込めればなあ、紙や布でも、肉を切り裂き骨を断つ!」
つまりは「騎士は徒手にて死なず(ナイト・オブ・オーナー)」……というよりは弘法筆を選ばずの究極系って感じでしょうか。達人武器を選ばず。
剣を絶対の力の証と考え最強の剣を求める蔑天骸に対し、剣を選ばない殤不患、という対比が本当に面白い。これはつまり殤不患という存在は蔑天骸を最高におちょくっているということ!……とか考えて一人で勝手に盛り上がっていたんですが、この考えはすぐに否定されました。なんだか恥ずかしい。

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「貴様、一体何者だ?!」
「人呼んで“刃無峰”!……だそうだ。さっき決まったばっかりだがな」
「さっき決まったばっかりだがな」が早口なのがまた面白い。ユーモラスなところも殤の魅力です。そしてそんな殤を見て、静かに「すっげえ……」と呟く殘雲と俺

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その紳士的な立ち居振る舞いから私に多くの笑いを提供してくれた凋命が敗北、死亡しました。ってグロっ!
凋命の必殺技を打ち破った殤の技は、「拙劍無式・鬼神辟易(せっけんむしき・きしんへきえき)」と言うらしい。ちなみに今までの技も全て公式サイトに載っています。で、どんな技かというと、体幹の経絡に正確無比な刺突を与え、相手の体内を巡る氣の運行を強制停止させることにより、行き場を失った氣功は暴発して肉体を内部から完全破壊する。強烈な練氣を行っている相手に対しとりわけ威力の絶大な技となる」とのこと。
……これってさあ、 Fate/Zero起源弾そのまんまじゃん!強力な相手であるほど効果を発揮するというところまでおんなじ。自分の作品だからパクリではないけど、そんなんだからいつもワンパターンなんて言われるんだよ!それともセルフパロディとでも言うのでしょうか。

氣功術を使って真剣と切り結ぶのはかなり疲れるらしく、なぜそんな難儀な思いをしてまで真剣を使わないのかと、殘雲は問います。人を切るというのは難儀なことであり、どこまで技を極めても、剣を振るうことが軽々しくなってはいけないと語る殤。しかし自分ぐらい性根が俗物では、常に戒めているのも面倒なので木刀にしている、とのこと。自戒が面倒だから、という理由なのが実に殤らしい。そしてその面倒くさがりが別の面倒を招いているのも殤らしいです。
本物の剣だと思い違いしていたせいで、殺無生は殤の剣の腕を低く見ていたのだと言う丹翡。ほんの少しだけ殺無生の株が下がったような気もしますが、殤の酔狂な真似を見抜くのは、それこそ凜や殘雲のように実際に殤の剣を見なければ不可能だったでしょう。つーか生きるか死ぬかの世界で帯刀しているのが棒きれなんて、普通思いもよりません。

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ところ変わって、天刑劍が封印される鍛劍祠に集う蔑天骸、狩雲霄、刑亥。ここに天刑劍の鍔と柄は揃い、遂にその封印が解かれます。
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天刑劍を引き抜いた台座は崩れ落ち、その下には驚くべきことに巨大な怪物が。やはりそうだったかと言う刑亥。あれこそがただ一柱魔界に帰ることが叶わず、天刑劍によって封印された魔神・妖荼黎だと刑亥は言います。神誨魔械に魔神を滅ぼす力はなく、天刑劍もその例に漏れず妖荼黎を封印していただけでした。
蔑天骸に弓を引く狩雲霄。このまま妖荼黎が目覚めれば、それ即ち窮暮之戰の再来。生きとし生けるもの全てが殺しつくされる。悪人ではあるが、人間社会の崩壊などもちろん望んでいない雲霄は天刑劍を台座に戻せと言います。そしてそれを邪魔する刑亥。魔族である彼女は妖荼黎が天刑劍によって封印されていることに思い至り、初めから封印を解くつもりで一行に加わっていたのでした。
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狩雲霄、死す。出来れば捲殘雲にリベンジして欲しかったので、少し残念。殘雲が雲霄の仇を取るのでしょうか。「確かに狩雲霄は悪人だった。でも同時に俺の兄貴でもあったんだ!」みたいな感じで。

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「魔神復活望むところだ。乱世こそは剣の天下。俺の歩む道に相応しい」
刑亥は天刑劍をどうするか蔑天骸に問いますが、蔑天骸はメガテンで言うところのカオス属性なので、妖荼黎の復活も意に介しません。それどころか、妖荼黎が世界を滅ぼした後に天刑劍によってそれを封印すれば救世主になれる、なんて言い出す始末。狩雲霄が可愛く見える悪党っぷりです。

これらの話を盗み聞きしていた凜は、蔑天骸の覇者の気風、驕慢の在り方がどこにあるか、その答えを手に入れたと蔑天骸に言います。
天刑劍が思っていたものと違っても落胆せず、妖荼黎の復活も見過ごす蔑天骸は、己一人で完結し、満ち足りている。そして蔑天骸の語る最強の剣、それは霊験あらたかな神誨魔械ではなく磨き上げてきた自らの剣術そのもの。己の技前に釣り合う剣として、天刑劍を欲しただけである、と凜は語ります。そしてこれを認める蔑天骸。無敗にして無敵の剣術、それこそが我が誇りの拠り所。こればかりは盗みようがないと言う蔑天骸に、しかし凜も譲りません。
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「狙う獲物がそんな無骨なものならば、精妙な盗みの技に訴えるまでもなく、ただ真っ向から打ち砕くのみにて事足りる!」
ってお前が戦うのかよ!凜の剣術の腕はどんなものなのか。まあ蔑天骸とは殤が戦うのでしょうが、殤が蔑天骸を倒した場合、凜が覇者の気風を盗みだしたと言えるのかどうか。あるいは殤は妖荼黎と戦って、凜が本当に蔑天骸を真っ向から打ち砕く可能性もあります。

次回、いよいよ最終回。妖荼黎の復活、蔑天骸の打倒、刑亥との決着、妖荼黎との戦い、そして封印と、やることがたくさんありますが、尺は大丈夫なんでしょうか……?

次回 Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀 最終話「新たなる使命」
「呼び覚まされた万古の呪い。滅びを告げる神の声。驚天動地の幻想奇譚、いよいよ締めの大勝負」