Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀 総評

まず恥を承知で言いますと、私は当初Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀に全く興味がありませんでした。存在としては知っていましたが、所詮は人形劇だろう、と。失礼かもしれませんが、多くの人もそうだったと思います。
それがたまたまAbemaTVで2話を見たことで、自分の認識が間違っていたことに気づきました。

まず「人形ってここまで動かせるんだ」ということに驚きました。見てきた人にはわざわざ言うまでもないのですが、Thunderbolt Fantasyの人形たちは本当によく動きます。そこらのアニメの数百倍は動きます。Thunderbolt Fantasyは剣によるアクションエンターテイメントなので、殺陣が毎回あるのですが、どれも素晴らしいクオリティです。勝新太郎座頭市さながらに、目にも留まらぬ早さで殺陣が展開していきます。どうやってこれを動かしているのか、不思議でなりませんでした。例えば、凜が蔑天骸との剣戟の時に、剣を一旦上に放り投げてまたキャッチして殺陣を再開するのですが、人の手で動かしているとは思えないほどに非常にスムーズな、とても人形には見えない動きでした。第0話のメイキングを見てなんとなくどうやって動かしてるのかわかりましたが、それでも、いや見てなお凄いと言わざるを得ません。非常に大変な作業を人の手で、しかも週一放送で行うとは、尋常なことではありません。
戦闘シーンは人形のみによる大迫力の殺陣と、CGをふんだんに使ったこれまた迫力十分な殺陣があり、何度も見返したくなります。CGを使うということも意想外でした。人形劇とCG。アナクロとデジタル。相反すると思われていた二つを合わせるという発想に驚きました。
ただこれには難点もあります。あまりに殺陣が早すぎて目で追えないことがしばしば。まあこれは巻き戻して何度も見返せばなんの問題もありません。

このように、凄まじい殺陣に最新のVFXが加わることで、人形劇を超えたある種アニメのような画(必殺技の存在など)が展開され、アニオタである俺はすぐにハマりました。
アニメ的表現を人形劇でやるというのが素晴らしい。これを言うと「アニメでいいじゃん」と言われるのですが、何もわかっちゃいないです。あえて困難なことをするというのが最高にかっこいい。見ているだけで作り手の情熱と才気をこれでもかというほどに感じれるのは、アニメでは中々味わえない体験です。本当に才能のある人々が妥協せずに作ったものを見れるのは、最高の贅沢と言えるでしょう。加えて、アニメでは戦闘シーンなどで激しく動く回のあとは作画節約のため動きが抑えられますが(そうしないと制作が死ぬので。稀に京都アニメーションのような毎話作画のクオリティが高い制作会社もありますが)、Thunderbolt Fantasyは毎回必ず興奮必死の殺陣があり、視聴者に対するサービスに余年がありません。
また、一口に殺陣と言っても、得物は剣だったり槍だったり弓だったりと、バリエーションに富んでいて飽きが来ません。中でも狩雲霄は前衛で戦う弓使いという、Fate/stay nightのアーチャーとも違った新しい弓使い像を生み出してくれました。

次に声優たちの熱演に感動しました。新しいことをやるという意識からなのか、声優陣の演技にかなり熱が入っているように感じられ、彼らの熱演を聞いているだけでも楽しくてしょうがありませんでした。キャストもベテラン揃いで安心して聞いていられます。また、俺がこれを知人に薦めると、人形は表情がないと言われるのですが、そんなことはありません。基本的には顔は目しか動かせない人形にも関わらず、声がつくことによって確かにその時々の表情を感じられました。

これらのことを2話を見て全て感じたわけではないのですが、ともかく圧倒された私はすぐさま1話(無料)をバンダイチャンネルで視聴し、3話からは録画して見ることにしました。
虚淵玄脚本のストーリーも良かったです。もともと氏が台湾で布袋劇を観て始まった、自身が望んだ企画なのでやる気も段違いだったのでしょう。
私にとって虚淵玄という脚本家は、まどか☆マギカの9話で(10話にあらず)その才能に惚れ込み、劇場版新編で一生ついて行くと決め、鎧武のまどマギと同じ展開で失望したという感じなんですが、Thunderbolt Fantasyを見て、偉そうな物言いですが、やはり力があるんだなと再認識しました。
物語は悪の親玉がいて、そいつから世界を左右する剣を取り返すという王道ど真ん中なストーリーですが、人形劇という奇抜な枠には分かりやすい話で合っていたと思います。人形劇でserial experiments lainや、輪るピングドラムのような話をされても困るので。
話が進むに連れて展開が二転三転するのもよく出来ていました。さすがは意表を突くのに定評がある虚淵氏、王道といえどその物語は一筋縄ではいかず何度も驚かされました。ちなみにThunderbolt Fantasyでは化け物の正体が人間だったってことはありませんでした。
多くの創作者が己の投影である主人公にあれもこれもと積み込みたがるものですが、Thunderbolt Fantasyでは色々な要素を何人かの登場人物に分け与えることで、結果キャラクターの主義主張が入り混じり、それぞれにドラマがある重厚な作品として仕上がっていました。これは虚淵氏が手がける作品で良く見られる手法です。こういった試みは別段珍しくありませんが、成功事例はそれほど多くありません。大抵の場合主役の数人が重点的に描かれ他はお座なりになってしまいます。その点Thunderbolt Fantasyは主要人物8人それぞれキャラ立ちしており、活躍も十分でした。

Thunderbolt Fantasyは痛快娯楽活劇なのでこれといったメッセージ性はありませんが、ストーリーはよく練られていました。特に己の最強の腕に見合う最強の剣を欲する蔑天骸に対し、剣は所詮道具でありそれを振るう人間こそが肝要と考え剣を選ばない殤不患という対応は見事でした。まあこの二人はほとんど絡みませんでしたが。
ダブル主人公というのも良かったです。人を謀ることが大好きな嫌なやつ凜雪鴉と、お人好しを絵に描いたような無頼漢殤不患。この二人がお互いに迷惑を掛け合い文句を言いながら物語が進んでいくというのが面白い。水と油である二人が仲良く出来るわけも無く、利害の一致で共に行動する様は見ていておかしくって仕方ないです。
セリフ回しも独特で、中二病患者の俺にはドストライク。古風な言い回しが多用され、特に印象的なのは殺無生と蔑天骸が対峙した時の殺無生のセリフ。「鳴鳳決殺の剣に言葉は無用。その剣、その天命の在処について、命を賭けて問い質す!」。うーん、痺れる。
初めは見慣れない漢字の固有名詞や人物名にたじろぎましたが、見ているうちに慣れました。というか、漢字は難しくとも読みは簡単なので見ている分には別段支障はありませんでした。

音楽も最高でした。澤野弘之お得意のボーカル入りBGMは今作でも山場を見事に盛り上げてくれました。澤野氏のBGMを使ったアニメは、ある一つの決まった最高にテンションの上がるBGMを山場に持ってくるのがお約束(いわゆる処刑BGM)ですが、Thunderbolt Fantasyでもその演出はバチッと決まっていました。やはり音楽がいいと没入感が違います。

美術のレベルも目を瞠るものだったと思います。まずキャラクターたちの服は一人一人個性が出ていて、凜雪鴉の服が装飾過多と思えば、殤不患の服はシンプルにまとめていたりと、作品全体の和を考えているのかうるさく感じません。やたら食事の作りこみが細かいのも驚きました。一見すると本物にしか見えません。まさか形劇で飯テロを食らうとは思っても見ませんでした。

キャラクターメモ
凜雪鴉
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Q.なぜ殺無生を倒せたのに放置してたんですか?
A.嫌なやつだから。
Q.なぜ最初から蔑天骸を倒して天刑劍を奪おうとしなかったのですか?
A.嫌なやつだから。
殤不患ではなくこいつが一番上にクレジットされていたのも今ならよくわかります。Thunderbolt Fantasyはある意味凜雪鴉という人間を知る物語でしたから。
彼が泥棒だったことにはそれほど驚きませんでしたが、実は超強いのには仰天しました。そしてそこから起こる疑問にもちゃんとアンサーを用意されており、それがまた彼の嫌なやつっぷりに拍車をかけました。
鎧武でも思いましたが、ぶっちーは悪人を描く時が一番イキイキしているんじゃないでしょうか。
とにかく悪人をおちょくるのが愉しいという一点で出来たキャラでしたが、そのブレなさは非常に魅力的でした。

殤不患
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るろうに剣心の剣心や銀魂の銀時のように、いつもへらへらしてるけどやる時はやるタイプ。普段は馬鹿にされるけど決める時は決めるキャラというのは見ていて痛快です。諏訪部順一のとぼけた演技も良い。主人公でありながら、あんまり戦ってないんですよね。1話(相手は雑魚)、5話(想像の中で)、7話(乗り気じゃない)、8話(本気じゃない)、11話(相手は雑魚)、12話、最終話(殺陣は無し)と七回ですが、実質彼の本気の殺陣が見れたのは12話だけ。だからこそ最高のカタルシスを得られたわけですが。
前半は彼の視聴者目線のようなツッコミ(殺無生を仲間にする時「えーっ!?」と驚いたり)がとても面白かった。そして最後はきっちり決める、非の打ち所のない主人公です。

丹翡
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おっとりしているようで意外と辛口。いや、殤に対しては丁寧だったし、捲殘雲が相手の時だけなのか……?それはそれでリア充爆発しろ、って感じですが。
オープニングの生足は必見。なんかエロい。
尺の都合とはいえ、蔑天骸の死に何か反応すればよかったのに。あんなにBlu-rayのCMで「兄の仇を!」って言ってるんだから。天国にいるお兄ちゃんが可哀想。
中盤の丹翡イジメで丹翡に同情するか興奮するかであなたの紳士度がわかります。

狩雲霄
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俺が最初に見たのは彼が登場する2話なので、印象深いキャラです。最初は「切嗣がアーチャーで主人公がエミヤwwwワロスwww」って一人で盛り上がっていました。
矢を先に放って落ちてくるところに相手を追い込むという戦い方には感動しました。鋭眼穿楊という二つ名もイカす。
俺は創作において死ぬ時が最後の花道だと考えているので、彼のあっけない死は少しばかり残念でした。

捲殘雲
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英雄に憧れる非常に真っ直ぐな性格でお調子者、まるで主人公みたいなキャラ。
ネームドキャラとの戦いでは白星をあげられませんでしたが、殤不患が精神的に完成されているため、一番成長したキャラでした。特に決別した師匠である狩雲霄に啖呵を切るシーンは非常にかっこいい。
パーティーの中では実力が劣る彼ですが、その槍さばきは凄いの一言。性格付けなのか、特に意味もなくぐるぐる回していたのも高ポイント。
名を挙げることに命を賭けていた彼が、最終的に丹翡とくっついたのは意外なようなそうでないような。まあ丹翡が殘雲の名を英雄として語り継ぐと言っていたので、彼としては万々歳でしょう。そうでなくとも護印師って身分が高そうですし。

刑亥
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結果的に(また封印されたとはいえ)一番目的を果たせたのは彼女でしょう。出来ればもっと鞭で戦うところが見たかった。ARIAアリシアさんのようなあらあらうふふ系でもなく、カレイドスターのレイラさんのようなツンツン系でもない大原さやかさんの演技は新鮮でした。
彼女の戦い方で一番面白かったのは、6話での狩雲霄との合わせ技、死体を操る呪符を矢で射って貼り付けたやりかたですね。死体を操るのは大軍相手だと恐るべき能力です。あと7話で披露した歌も良かった。

殺無生
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鳴鳳決殺の名を持つ麗しき剣鬼。彼の登場で物語は一気に緊張感を増しました。
三対一でも一歩も引かないどころか余裕すら見せるその強さに惚れ惚れしました。ポジション的には中ボスだと思っていたので、仲間になったのは意外でした。
彼もまた強さを求めるという一点のみで出来たキャラですが、例え負けると分かっていても戦うその矜恃には感激しました。
何と言ってもVS蔑天骸はThunderbolt Fantasyのベストバウトの一つでしょう。
あと、彼独特の、「○○○○○……ぞ」という語尾を区切った喋り方は個人的にツボでした。
ただ、彼が死んだ後に凜も(恐らく)殤も彼より強いことが判明したことで、相対的に俺の中での格が下がってしまいました。いや、良いキャラなんですけどね、ホントに。二刀流なのもポイント高し。

・蔑天骸
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関氏の熱演も相まって、非常に魅力的な悪役に仕上がっていました。特に自分の強さを試すこともせず、決して疑わないその姿勢はまさに求めていた悪役の貫禄でした。まあ、その驕り高ぶる性格が凜に目をつけられてしまったのですが。
彼を語る上で欠かせないのは、何と言ってもそのカリスマでしょう。常に自信に溢れ大きなことを言う彼は、無条件で付き従いたくなります。玄鬼宗が喜んで身命を捧げるのもわかるというもの。あと決して暴君ではなく、部下を無闇に罰したりしないどころか何かしてくれたら礼をいうところなんかまさに理想の悪役です。強さと貫禄が高い次元で同居しています。
だからこそ凜に負けたのはショックですが、劇中で唯一凜に勝ったのも蔑天骸なので、最後まで悪役の意地を貫いてくれて満足です。

総じて、最高レベルの作品だったと思います。これを見なきゃ人生損する、とまでは言いませんが、存在を知っていて見ていないのは非常に勿体ないと言えるでしょう。
一つ難点を挙げるとすると、虚淵氏の他作品を思い出す点がいくつかあるのが気になりました。蔑天骸はFate/stay night(及びその前日譚のFate/Zero)のギルガメッシュっぽいし、殤不患の必殺技はまんま起源弾だし、デウス・エクス・マキナっぽい終わり方もまどか☆マギカをなんとなく思い出させます。まあこれらはさして気にするほどではないですし、他の面白い部分で十分に目をつぶれます。

Thunderbolt Fantasyより面白い作品はあるでしょうが、Thunderbolt Fantasyより面白くて凄い作品はそうはないと断言できます。
感想は途中から書き始めましたが、あまりにもかっこいいセリフが多すぎてセーブしないと全部書き起こしてしまいそうな勢いでした。一つの記事を上げるのに長いと三時間くらいかかってしまい、時間が取れず遅めに感想を上げることもしばしば。それでもなんとか完走出来たのは、やはり書いていて自分が楽しかったからでしょう。いつになるかわかりませんが、二期も感想を、今度は1話から書いていきたいと思います。
今はただ偶然これを見た自分の幸運と、これほどの作品を世に送り出してくれたことへの感謝で胸がいっぱいです。二期の放送を心より楽しみにしてお待ちしております。