火ノ丸相撲 第121番「怖いもの知らず」感想

かつて白楼相撲部が取材を受けた時、国宝「大包平」と呼ばれる強さの秘訣はなんであるかを加納は問われました。天王寺と同じように相撲が誰よりも好きという気持ちが理由かと聞かれ、自分の理由はそんなに立派じゃないと言います。
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負けるのが嫌、それが強さの秘訣。
父親が白楼の監督である加納は小さい時から、白楼を通していくつもの夢が終わる瞬間を、負けることがどういうことかを見てきました。どれほど修練を積もうとも、終わる時は一瞬。そういった背景があって、負けたら全て無意味、という考えを加納は持つようになったのでした。
その上で自分が好きな白楼相撲部には負けてほしくない、だから死ぬほど稽古するのだと加納は答えます。

ダチ高対白楼を見守る観客席では、栄華大付属高校相撲部主将、四方田が、「加納の奴負けねーかなぁ」とぼやきます。国宝と呼ばれる連中は皆根っこには相撲を愛している部分があるけど、外に理由を求める加納にはそれを感じられない。相撲を楽しいと思っているかどうかも怪しい。だから嫌いだし負けてほしい。
火ノ丸相撲でこういうこと言うキャラって珍しいですね。発言が小物っぽいというかなんというか。大抵こういうキャラは実力も大したことないと相場が決まってますが、そこは関東最強の栄華大付属の主将、実力はかなりのものなのでしょう。
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自分の外に理由を求めるような人間はふつう一流にはなれない、けれど加納は「国宝」という超一流。「天才」と評するしかない。
このマンガに出てくる連中は相撲好きなやつらばっかりなので、こういったキャラもまた珍しい。まあ四方田の評なんで、実は加納もまた相撲大好きなやつなのかもしれませんが。
四方田の気持ちもまあ分かります。どうせ勝つなら相撲が好きな方に勝ってほしいと思うのは自然なことです。しかし想いと強さが直結しているとは限らないし、そう思い込むと痛い目見るので、こういうキャラがいてもいいと思います。

痛い目見た人その一
「どうしてお前なんだよ!?一体どうしてっ!!俺は努力したよっ!!お前の10倍、いや100倍 1000倍したよっ!風間さんに認められるために!!ペコに勝つために!!それこそ、朝から晩まで卓球の事だけを考えて・・・卓球に全てを捧げてきたよ、なのにっ・・・・・・・・」
「それはアクマに卓球の才能がないからだよ。」

痛い目見た人その二

「認めぬ……認めぬぞっ!貴様のような巫山戯た男が、我が剣に並び立つなど!」
「覚悟と情熱がそのまま結果に繋がると信じているなら、それは甘い夢というものだ」

始まる「大包平」対「国宝喰い」。立合いは加納が制し、早くもチヒロ不利か?と思われますが……
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大典太「…不愉快ですよね。俺は一回戦で消えたはずなのに、まるでそこに――俺がいるみたいだ」
大典太から盗み出した「閃光」を使い、試合の主導権は一気にチヒロ側に。
二日間で必死になって形にしたのだろうとのこと。ふつう二日では形にすらならないと思うのですが……恐るべきはチヒロの才能です。しかし沙田の「いなし」を盗み出した時のように完成度は大典太には遠く及ばないのでしょう。チヒロの真骨頂であり恐ろしさは技のコピーではなく、そうやって得た技全てを特別なものではなく勝つための手役として扱っているという点です。
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チヒロを知っているふうな口を聞き、チヒロと同じ笑い方をする謎の男。栄華大付属なので、恐らく決勝戦でチヒロと当たるのでしょう。

後がない状況で、なぜそこまで大胆な攻めを出来るのか、加納は困惑します。まさしく怖いもの知らず。
無理無謀といった怖いところに手を伸ばさなければ強さの殻は破れない。それを三ツ橋は自分たちよりも知っていたと、チヒロは独白します。まさしく今の状況と同じで、高校相撲No.2に挑戦するのは無謀といえるでしょう。しかしビビっていては道は開かれない。臆すること無く手を伸ばした者だけが強さの殻を破ることが出来る。だから負けることを恐れようとも、チヒロは止まりません。それを身をもって教えてくれた三ツ橋のためにも。誰だって負けるのは怖い、でも俺達は踏み出せる、身の程知らずのバカが持つ底力を見せてやる、とチヒロは吠えるのでした。