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舟を編む 第五話「揺蕩う」感想

舟を編む
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「香具矢さんに気持ちを伝えようと決心しました。何とぞご教示お願いします!」
苦心しながらも香具矢へのラブレターを書き上げた馬締は、恋愛ごとには明るそうな西岡に教えを乞います。しかし馬締の字は綺麗だなあ。昔俺は書道教室に通っていましたが、根が不真面目なのであまり上達しませんでした。だからというわけではないですが、字がうまい人は無条件で尊敬したくなります。

そうこうしていると西岡に上から呼び出しがかかり、西岡も覚悟していたので神妙な面持ちで出頭します。
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「でだ、お前のその手腕を辞書作り以外でも振るってほしいって話になってな。宣伝部に異動してもらうことになったから」
「えっ?」
「よかったな。お前宣伝部希望してたろ?宣伝部長にはもう話は通してある。春には移ってもらうからな」
辞書編集部って閑職っぽいし、傍から見たら栄転ですが、これからという時に加えてやる気になってきた西岡からしたら承服できない話です。断ろうとしますが……
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「そりゃねえだろ?お前もそれぐらい覚悟の上で好き勝手やってたんじゃねえのか?」
西岡は何も言えず、異動は決定的に。ついでに辞書編集部には別の辞書の改訂作業が与えられました。勝手に動いたツケがここにして回ってきました。

西岡は自分が異動になることを辞書編集部の皆に言うことも出来ず、一人悶々とします。編集作業のことを考えるなら、仕事の引き継ぎや補充要員を決めなければいけないので早く伝えるに越したことはないですが、中々言い出せるものではありません。
向いていないと思っていた辞書編集の仕事が自分でもやっていけるかも、と楽しみを覚えた矢先の異動であり、それ故失意も大きい。そんな西岡の胸に去来するのは、自分が去って辞書編集部は、そして馬締はやっていけるのかという思い。実際辞書編集部の折衝役って西岡一人がやっているように見えるので、彼が抜ける穴は相当なものだと思います。馬締はどう考えても人と話すのには向いていないですし、西岡が去った後、辞書編集部はどうなってしまうのか。

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香具矢への恋文、それは15枚に及ぶ長文に加えて漢詩をも引用しているという恐るべきものでした。映画だと確か、それこそ本当に果たし状みたいな紙にやたら達筆で書かれたものだったと記憶していますが、記憶違いかな。
ふつうだったら読むのを投げ出したくなるだろうところを、ちゃんと全部読んであげるあたり、西岡は本当に馬締の良い相棒です。

松本先生が心待ちにしていた辞書の見本組が届き、それについて盛んに議論する松本先生、荒木、馬締。楽しそうな三人を見て、西岡の心がほどかれていきます。
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「よく分からないとこもあったけど本気だってことは伝わった。いいんじゃね?ズバーンと香具矢ちゃんに渡しちゃえよ」
馬締の恋文に太鼓判を押す西岡。余程理解のある人でないと引いてしまいそうなものですが、逆説的に西岡は馬締のことを余程理解していてその上でそれが香具矢にも伝わるはずだと確信しているのでしょう。このあとの「お前さ、もうちょっと自信持っていいよ。馬締くらい真面目にやってればきっと何もかもうまくいく」というセリフもそのことを如実に表していて実に良い。

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「大丈夫です!辞書編集部には優秀な人材も入ってきていますし、何も心配はいりません!」
大渡海は大丈夫なのかと辞書の執筆者に問われ、西岡は胸を張って大丈夫だと答えます。辞書編集部を、馬締を、心から信頼しているからこその言葉です。中々に熱い。
西岡は異動にになるまで自分が出来ることを全部やってやると、新たに決意するのでした。開き直った人間は強い。

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「読んでください。僕の気持ちです」
一方相棒がそんな事になっているとは露知らず、絶賛色ボケ中の馬締は、正座待機で待ち構え、香具矢に渾身の恋文を渡します。
馬締のおかしな様子に、香具矢は差し出されたものが自身への恋文だと気づ……
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……かないよねそりゃ。だってどう見たってラブレターじゃないもん。

おまけ。
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「念のためコピーとってと……。いつ何時これが大渡海のためになるかもわからないからな」
多分一生このことで馬締はイジられるのでしょう。南無三。

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